スイープトウショウ(東京競馬場、毎日王冠)出典:wikipedia
もちろん、シンボリルドルフやテイエムオペラオー、ディープインパクトのように有無を言わせない強さが魅力の、いうなれば「オーソドックスな名馬」もたくさんいました。
しかしその強さや成績よりも、放っておけないオーラを発散させている名馬もほんとうに魅力的です。
近年では、英雄ディープインパクトに次ぐ三冠馬でありながら、そのキャラクターは正反対「暴君」などとも呼ばれた異端児オルフェーヴルはまさにそのタイプでした。
古いところでは、あの「奇跡」を目にした競馬ファンの多くが涙したとされるトウカイテイオーやオグリキャップなども、その強さ以上の魅力を湛えた名馬でした。
今回はそんな印象的な名馬で、しかも「超個性的な牝馬」にスポットを当ててみたいと思います。
ファンを馬券で困らせただけでなく、調教師やジョッキーも困らせたエピソードが微笑ましくも美しいその名牝の名は、男性だけでなく女性のファンが非常に多い、スイープトウショウ。
スイープトウショウの血統
父 エンドスウィープ |
父の父 フォーティナイナー |
父の母 Broom Dance |
|
母 タバサトウショウ |
母の父 |
母の母 サマンサトウショウ |
奇跡の名牝スイープトウショウ、その生い立ち
フォーティナイナーを経由したミスタープロスペクター系の父エンドスウィープ、そして母はタバサトウショウ(その父ダンシングブレーヴ)という、スピードと底力の双方を備えた印象がある配合のスイープトウショウは、もちろん名門トウショウ牧場に生まれました。
2001年5月という遅生まれでした。
思えば、非社台系のオーナーブリーダーの最後の砦だったトウショウ産業の、まさに最後の名馬でした。
正直牝系はそこまで活力があったわけではなく、むしろ、ともすれば途絶えてしまったとしても不思議ない、細々としたファミリーラインがなんとか血をつなぎ、ようやくスイープトウショウの中に流れ込んだという印象が強いです。
しかしながら、チャイナ-マーブル-サマンサ-タバサ-スイープという「トウショウ」の牝系系譜を振り返ってみると、オーナーブリーダーが大事に大事に夢や想いをつないできた血であることがわかり、スープトウショウはまさにその結晶であることも理解できます。
キレ者現る!デビューから2連勝で重賞初勝利
2003年10月、牧場やオーナーの夢を乗せ、スイープトウショウは京都芝コースの1400m戦でデビューを果たし、2倍を切る圧倒的人気に応えて見事デビュー戦を飾ります。
続くファンタジーSも2番人気に支持され、デビューから2連勝で重賞初勝利を飾ります。
このときはまだ、「チーム・ジャングルポケット」の旧渡辺栄厩舎の管理馬だったスイープトウショウの背中には、ジャングルポケットでダービージョッキーの称号を手にした角田晃一騎手(現調教師)がいました。
このころのスイープトウショウというと、なんといってもそのキレ味は目を見張るものがありました。
スイープトウショウは、最晩年までその力が衰えなかったからこその名牝でありましたが、おそらくファンのイメージは、このカミソリのように鋭く、まさに「斬る」というイメージの、まだキャリアが浅かった当時の「キレ味」でしょう。
今にして思うと、その末脚は数字以上にすさまじい破壊力がありました。
そのポテンシャルの高さが、古馬になってからの「総合力」となってスイープトウショウを完成させ、多くのファンがスイープトウショウの虜になったのだと思います。
かくいう筆者もそのひとりです。
2歳女王への期待が高かった阪神JF5着後、角田騎手(当時)との最後のタッグとなった3歳緒戦の紅梅Sを勝ち、師の勇退、厩舎の解散により、旧鶴留厩舎への転厩が決まったスイープトウショウの新しいパートナーとなったのが、この後さまざまな紆余曲折を経た名コンビが現在も語られる池添謙一騎手です。
失意の春クラシックと秋華賞でつかんだ悲願のG1初制覇
池添騎手との新コンビで迎えた桜花賞トライアルのチューリップ賞でも鋭い決め手を発揮し快勝。
しかし続く桜花賞では超良血馬のダンスインザムードの前に5着と敗れ、悲願のGⅠ制覇はここでもまた持ち越しとなりました。
筆者の中にはこのあたりから、「もしかしたらスイープトウショウは早熟かもしれない」という、不穏な推測が芽生えはじめます。
確かにダンシングブレーヴを彷彿とさせる鋭い決め手はありましたが、どちらかといえば全体的に軽いスピード馬の印象が強かったからです。
しかし続くオークスでは、上記の理由で盛大に馬券を切ってテレビを凝視していた筆者を尻目に、強烈な追い込みでダイワエルシエーロの2着に突っ込んだスイープトウショウが、私の馬券をまたもやオシャカにするのでした。
しかし、追いこんで届かずの競馬はやはり「今後ますます厳しくなっていく」と解釈せざるを得ない内容だったように感じていました。
結局スイープトウショウは、期待されながらも春のクラシックを勝つことができず、同期の良血馬たちから遅れをとる形で失意を味わうことになります。
秋緒戦となったローズSでも予想どおり、追いこんで届かずの3着に敗れ、このあたりから徐々にスイープ特有の気性の難しさも現れるようになりました。
しかし「内回りの秋華賞など用なしだ・・・」とほくそ笑む筆者をあざ笑うかのように、本番の秋華賞ではとてつもないキレ味を再び発揮し、スイープトウショウはついに悲願のGⅠ初制覇を飾り、その素質の片鱗をようやく垣間見せることになりました。
鞍上の派手なガッツポーズを見ながら、筆者は徐々にこのコンビがキライになっていくのを感じていました。
そして、時おり見せる凶器のような末脚と、その裏に隠されているスイープトウショウの難しさ、頑固さのようなものも、徐々に感じるようになっていたのです。
まったく人気薄の安田記念で見せた真実の姿
いくら牝馬とはいえ、今までに見たことがないレベルのキレ味を誇ったスイープトウショウだけに、「これ以上」はないと確信していました。
実際、対古馬戦になってからの2戦はともに5着と着を落とし、しかも全然惜しくない内容の競馬だったこともあり、私は「やっぱりね・・・」と、自身の目が確かだったことに安堵していました。
そして、成長がなければ古馬戦では戦えないことを再確認した――つもりでした。
ところが、です。
マイルのオープン特別を5着に敗れて臨んだまったく人気薄の安田記念で、スイープトウショウが突如として成長した姿を見せたのです。
牝馬同士でも古馬GⅠでは相手にならないのに、まさかマイルのチャンピオンレースでの大駆け・・・私は「え!?」と思ってしまいました。
いや、着順だけでそう判断したのではありません。
GⅠだって展開がハマればそういうことが起こるのが競馬です。
しかしこの日の池添とスイープは、いつもよりも少し前(中団やや後方)の外目を追走し、あろうことか府中の4角で自分から動いて大外をぶん回す「一番やってはいけない競馬」での大激走だったから驚きました。
このときはじめて私は「もしやこの馬・・・」と考えました。
2005年宝塚記念、エリザベス女王杯での「王者の走り」
そして続く宝塚記念ではついにスイープトウショウに本命を打・・・っていればかっこよかったのですが、「マイルだからああいうこともあるが、中距離のチャンピオンレースではないないないないない・・・」と自分を説き伏せ、再びスイープトウショウの走りに唖然とさせられたのでした。
このときは、もう従来の「キレ者」というイメージではなく、完全に「王者の走り」だったスイープトウショウ。
ちなみにこのときのメンバーを見て驚くなかれ。
2着ハーツクライ、3着ゼンノロブロイをはじめ、同じ牝馬でも人気上位のアドマイヤグルーヴ、牝馬三冠のスティルインラブを相手にせず、このハイレベルのメンバーで圧倒的人気のタップダンスシチーを自ら捕まえに行き、追いすがるチャンピオン牡馬をひねりつぶすような強さだったから、私は驚いたのです。
もう本当に驚きました。
驚きすぎて気絶しそうでした。
開いた口はしばらくふさがらず、顎関節脱臼を疑ったほどです。
素軽いスピード馬・・・早熟だろう・・・これ以上はないな・・・牡馬相手に勝てるはずがない・・・半ば薄れかけた意識の中で、自身が与えたスイープトウショウ評がこだまします――
我に返った私は全身全霊で驚き、全身全霊で人馬を崇め、初めて自分が誤っていたことを心からスイープに詫び、そして最強の女王の前にひれ伏したのです。
その後もエリザベス女王杯では「信じられない位置からの差し切り」を演じ、このときには32.6なんていう現実離れした脚で上がってきたのも強烈なインパクトとなっています。
しかし6歳になっても現役を続行したスイープトウショウは、早いうちから見せていた気性難がアダとなり、安田、宝塚でファンを困らせたのに続き、今度は厩舎スタッフを大いに困らせるようになってしまったのです。
しかし私はそれも「女王の威厳」だったと解釈しています
きっと池添騎手だってそうです。
何しろ調教に向かおうとせず、自身の肩の上に雪が積もるほど立ち止まり、それでもスイープを無理に促さずに納得いくまでつきあったのだから。
さすがは「スイープが認めた男」ではあると思います。
今となっては、英雄ディープインパクトの引退レース有馬記念で、スイープトウショウの頭固定で勝負して大負けしたことも、私のよい思い出です。
スイープトウショウ(牝15)・・・主な勝ち鞍・成績:秋華賞、宝塚記念、エリザベス女王杯(すべてGⅠ)
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