競馬を影で支える馬運車。
巷では馬バスともいわれていますね。
競馬場に観戦する時、道中で何度か目にしたことのある人も多いでしょう。
しかしながら大多数の人は馬運車についてあまり詳しくないのではないでしょうか。
当記事ではそんな競走馬の馬運車についてまとめてみました。
馬運車の歴史
馬運車は70年ほどまえに誕生しました。
それまでは鉄道での輸送が主流だったようです。
道路交通網の整備に伴い、馬運車での輸送が主流になったといわれています。
馬運車の大きさ
馬運車のサイズは
高さ約3.8メートル
長さ約12メートル
幅約2.5メートル
と大型バスに匹敵するサイズとなっています。
馬の積み込み方と役割
厩舎を回りながら競走馬の積み込みをします。
馬運車一台につき、前後に3頭ずつ、6頭まで乗ることができます。
ただし、競馬輸送の場合、繁殖馬を運ぶ場合は最大4頭としています。
誘導馬や雑役馬を運ぶときは6頭フルに乗せて運びます。
前後に乗せられた馬は進行方向側を向いて運ばれます。このとき、牡馬は牝馬を見て発情しないように、牡馬が前側に積まれます。
運転手は基本的に1名で運転しますが、長距離輸送、例えば関西圏から北海道の函館競馬場への輸送となると2名が交代で運転します。
運転手以外にも厩舎スタッフも同乗します。
運転席、助手席の後ろに3畳ほどの休憩スペースがあり、そこで待機しています。
馬は繊細な生き物なので急ブレーキ・急発進は厳禁です。
ドライバーの人も、高価な生き物を扱っているので細心の注意を払って運転しています。
馬は基本的に立っています。
立ったまま寝ている馬もいるようです。
輸送の費用は基本的には馬主が負担します。
ただし、競馬場から栗東・美浦トレーニングセンターへの輸送は主催者であるJRAが負担します。
ちなみに馬運車はJRAの関連企業以外にも民間企業で請け負っている会社も存在します。
馬の輸送は基本は陸路
夏になると北海道でも競馬が開催されます。
北海道開催においては競走馬も海上輸送されます。
海上輸送で有名なのは関西圏であれば京都の舞鶴市・福井県敦賀市と北海道の小樽市・苫小牧市を結ぶ新日本海フェリー。
関東圏であれば茨城県大洗町と北海道苫小牧市を結ぶ商船三井フェリーが有名ですが、競走馬の輸送に長距離フェリーは使用されません。
使うのは北海道函館市と青森県青森市を結ぶ青函フェリーのみです。
海上輸送で懸念されるのは輸送中の馬の体調悪化です。
新日本海フェリーも商船三井フェリーも20時間近く海上移動するので輸送中に体調が悪くなったら手の施しようがなく、また、輸送中はほぼ圏外であるため、万一の際も対処できません。
青森市と函館市を結ぶ青函フェリーは海上移動時間が4時間と、北海道⇔本州を結ぶ海上輸送の中では一番短くすむので北海道開催においてはこのルートのみが使用されます。
ちなみに陸路で馬の容態が悪化したときはルート付近の獣医師に診せることとなっています。
馬運車の設備
車両後部の馬の乗降口には馬の怪我を防ぐための転落防止板が設置されています。安易に転落しないよう措置されています。
エアーサスペンションが搭載されています。
エアーサスペンションとは空気の弾力で、振動を緩和する装置です。
脚の脆い競走馬にとって少しの振動でも影響を及ぼしかねないことから、エアーサスペンションは大きな役割を持っています。
エアーサスペンションは前輪・後輪に2箇所ずつ、計4箇所設置されていて、馬の乗り降りの際には車高を低くすることもできます。
馬房内にはエアコンが搭載されています。
馬は暑さが苦手なので、少し肌寒いくらいの温度で設定されています。
気温の低い冬場は窓を開けて温度調整しています。
馬が入るスペースはおしりの部分はクッションになっていて痛みを和らげます。
馬運車全車にIP無線を搭載しています。
基地局で全車の位置情報を把握し、事故や渋滞といった緊急事態に対応しながら基地局の指示に従い運行しています。
馬房内に監視カメラが設置されており、運転席内のモニターで馬房内を確認することができます。
緊急の時には運転席側から馬房内に入ることもできます。
競走馬の名前がプリントされている理由
大型バスに匹敵する大きさで味方によっては巨大なキャンピングカーのような馬運車。
外装を見てふと、馬運車に馬の名前がプリントされているのに気づいた人もいることでしょう。
これは日本馬匹輸送自動車㈱の所有する馬運車にプリントされています。
日本馬匹輸送自動車㈱は主に美浦の馬の輸送をメインに請け負っています。
福島開催や新潟開催の際は関東や東北の高速道路でお目にすることもあるでしょう。
プリントされた馬の名前は主に歴代ダービー馬の名前です。
最も古いものでは第2回日本ダービー(昭和8年)の優勝馬「カブトヤマ」の名前がプリントされています。
ちなみに日本馬匹輸送自動車㈱で所有している馬運車は約90台。
この記事を書いている2019年時点で日本ダービーは第86回まで開催されました。
ダービー馬よりも馬運車の数のほうが多いのです。
そのため、ダービー馬以外にも歴代顕彰馬などの名前もプリントされています。(参考:wikipedia)
ダービー馬以外の馬の名前がプリントされた馬運車はある意味稀少ですね。
馬運車の事故
馬運車は安全運転されているので大きな事故はほとんどありませんが、人間の仕事なので全くのゼロでもありません。
例えば2019年の9月23日に船橋競馬場で開催された日本テレビ盃では笠松から出走する予定だった3頭の馬が馬運車の事故によりレースに間に合わず、競争除外となりました。
同様に海外でも馬運車による事故がありました。
その時乗車していた馬は日本で一世を風靡した名種牡馬、サンデーサイレンスです。
サンデーサイレンスは日本で種牡馬として大活躍しましたが、アメリカ合衆国生まれの馬で、現役時代はアメリカの競馬場で活躍しました。
そのサンデーサイレンスのデビュー前の話となります。
セリ市からの帰りに運転手が心臓発作を発症し、サンデーサイレンスを運んでいた馬運車が横転しました。
馬運車を運転していた運転手、馬運車に乗っていた他の競走馬は全員死亡したのですがサンデーサイレンスは重傷を負いながらも奇跡的に一命をとりとめました。
打撲を負い、歩けないほどの怪我を負いましたが競走能力は失われておらず、獣医病院での賢明な治療の末に快復し、事故から2週間後には退院したそうです。
名馬ディープインパクトを輩出し、オルフェーブルのお爺さんであるサンデーサイレンス。
もし打ちどころが悪くて亡くなっていたら、ディープインパクトもオルフェーヴルも存在しませんでした。
ひとつの奇跡がやがて大きな旋風を巻き起こすものなのだとしみじみと感じます。
(番外)馬運車の運転手になるには
運転手になるには大型1種免許が必要です。
また、運転には細心の注意を払う必要があるため、大型1種の実務経験のある人は優遇されるようです。
馬の積み込みは厩務員が行うため、ほとんど触れる機会はありません。
ただし、馬の飼料や馬具の積み込みは運転手が行います。
JRAの開催は一般的に土日がメインなので土日は仕事があります。
また、地方競馬は平日に開催されることも多く、地方競馬の交流戦の際は輸送業務があるようです。
JRAの請負業者以外にも民間の馬運送業者もあり、調べたらでてくるかもしれません。
馬運車についてのまとめ
馬運車についてざっくりとまとめてみました。
特に内装に関してはヘタな中古車よりも全然立派でいかに馬が快適に輸送できるかに特化されているかが分かりますね。
ちなみに馬運車は改造車で改造費用は5000万円ほどするそうです。
人間の車以上に高価ですが、馬も相当高価な生き物なのである意味妥当かもしれませんね。
競走馬のプリントは大きな意味はありませんが、競走馬と同じく
「ディープインパクト号」
「ウオッカ号」
など、歴代ダービー馬の名前や歴代顕彰馬などの名前がプリントされています。
奥の深い馬運車。
競馬場付近や高速道路で見かけたらくれぐれも近づいたりあおり運転せずにしましょう。
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