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日本馬で史上初、凱旋門賞2着まで届いたエルコンドルパサー。
ここではエルコンドルパサーの血統や現役時代、凱旋門賞での活躍、代表産駒についても紹介していきます。
エルコンドルパサーの血統について
エルコンドルパサーの母親であるサドラーズギャルですが、イギリスのセリ市に上場予定だったものの欠場し母国であるアイルランドに戻ってしまいました。
しかしこの馬の購入を諦めきれなかった生産者は、アイルランドの牧場まで代理人を派遣して交渉させ、結果的に購入することに成功しました。
この生産者の執念が、後に日本競馬にとって悲願の『凱旋門賞制覇』に向けての足掛かりになったのは言うまでもなく、その道筋を作ったエルコンドルパサーとその関係者の功績は非常に大きいものであると思います。
後続に1.1秒差!圧巻の新馬戦
芝での活躍のイメージが強いエルコンドルパサーですが、デビューから3戦目まではダート戦での連勝を飾っていました(3戦目の共同通信杯は降雪の影響で芝→ダートに変更)。
そのダートのデビュー戦で見せた圧巻の走りは、今もなおエルコンドルパサーのベストレースとして挙げる人が多いほど、衝撃的な圧勝でした。
スタートで出遅れ、3コーナーを迎える辺りでもただ1頭離れた最後方を追走し、観戦に来ていたオーナーが『もう帰ろうかと思った』と言うほど通常なら惨敗する展開でしたが、4コーナーでいつの間にか先団に取り付くと他馬とはレベルの違う末脚で、直線だけで後続に1.1秒差をつける圧勝を飾りました。
なお、このレースで2着だったマンダリンスターが次走の新馬戦を圧勝し、その後京成杯(GⅢ)を勝ったこともエルコンドルパサーの評価を一層高くする要因となりました。
古馬との初対決!ターニングポイントとなったジャパンカップ
これまでNHKマイルC勝ちを含む6戦5勝2着1回とほぼパーフェクトな成績を残していたエルコンドルパサーですが、ジャパンカップに臨むにあたって1800mまでしか距離経験がなく、さらに同世代のダービー馬スペシャルウィークと、牡馬に混じって天皇賞・秋を勝った最強牝馬エアグルーヴも出走してきたこともあり、当日のエルコンドルパサーは3番人気でした。
当時はまだ3歳でジャパンカップを勝った馬がいなかったのも人気に影響したのではないでしょうか。
しかし、レースで見せたエルコンドルパサーのパフォーマンスは距離不安など微塵も感じさせない素晴らしいものでした。
終始2、3番手をリズム良く追走し、直線早め先頭から後続を全く寄せ付けない非常に強い内容での快勝で、オーナーをはじめとする関係者に世界での戦いを意識させるには十分すぎる内容でした。
エルコンドルパサーの競走生活において、間違いなくターニングポイントとなったレースがこのジャパンカップでした。
【凱旋門賞・動画あり】歴史に残る偉業!?
凱旋門賞での人気
凱旋門賞当日のエルコンドルパサーはモンジューに次ぐ2番人気に支持されていました。
実績的に、本来ならばキングジョージを含むGⅠを3連勝していたデイラミが2番人気に推されるべきでしたが、この年は稀に見る不良馬場となっており、ギリギリまで出走を迷っていたのが微妙に人気に影響したのではないでしょうか。
モンジューはここまで7戦6勝2着1回とほぼパーフェクトな成績で前哨戦を制し、さらに血統的に馬場が悪くなるのは大歓迎のタイプだけに、1番人気に支持されたのは納得でしょう。
どちらにしても日本馬が初めて勝ち負けを意識できる程の人気に推され、競馬の本場フランスの有力馬と同等の評価を得たといった意味でも、日本競馬にとって歴史的な一日だったと言えそうです。
勝ち馬モンジューについて
この年のフランスダービーを4馬身差で、アイルランドダービーを5馬身差で圧勝し、とにかく力のいる馬場にめっぽう強かった印象ですが、何よりも大きかったのは、『3歳馬で56キロの負担重量で出走できた』ことでしょう。
ただでさえ重たいヨーロッパの馬場でパワーが求められることに加えて、古馬との斤量差が3.5キロあったのはモンジューにとって間違いなく有利に働いていたと思います。
翌年のキングジョージも完勝したように、モンジュー自身が素晴らしい能力の持ち主であったことは間違いありませんが、少なくとも3歳の時点でのエルコンドルパサーとの能力差はほとんど同じか、エルコンドルパサーの方が上だったと今でも思っています。
エルコンドルパサーの敗因とは?
先程挙げた3歳馬との斤量差(3歳牡馬が56キロに対して、古牡馬は59.5キロの斤量)も間違いなくあると思いますが、この年に関しては『近年稀に見るほど悪化した不良馬場』と、『勝ち馬との2400mに対する距離適性』が大きな敗因として挙げられると思います。
この年は凱旋門賞史上最悪の不良馬場と言われたように、パワーのある欧州馬でもレース途中に次々と脱落していくほど力のいる馬場になっていました。
例年だと2分25~26秒台の決着になることが多い凱旋門賞において、この年の勝ち時計が2分38秒5という数字からも、どれだけ力のいる馬場だったかが分かると思います。
さらに血統面においても、モンジューとエルコンドルパサーには大きな違いがありました。
パワーに富み、2400mがピッタリとも言えるサドラーズウェルズ産駒のモンジューに対して、どちらかと言えばスピードタイプで、決して2400mがベストとは言えないエルコンドルパサーが、斤量差や馬場といった厳しい条件の中モンジューと互角以上に渡り合ったのは、それこそ『快挙』と言えるのではないでしょうか。
翌日のフランスの競馬新聞の一面で、『今年の凱旋門賞には2頭の勝ち馬がいた』と大きく報じられたのは、エルコンドルパサーに対するフランス競馬界からの最大級の賛辞だと思います。
エルコンドルパサー代表産駒一覧
代表産駒を紹介します。
ソングオブウインド
主な勝ち鞍:菊花賞(GⅠ)、香港ヴァーズ(GⅠ)4着、神戸新聞杯(GⅡ)3着
メイショウサムソンの3冠達成が掛かった菊花賞で、重賞未勝利の身に加えて大外枠という厳しい条件ながら、アドマイヤメインが引っ張るハイペースを後方でじっくり脚を溜め、直線ドリームパスポートとの叩き合いを制して勝利しました。
次走の香港ヴァーズで故障を発生し、3歳で引退することになりましたが、もし無事なら長距離路線で長く活躍が期待できた1頭だったと思います。
アロンダイト
主な勝ち鞍:ジャパンカップダート(GⅠ)、東海S(GⅡ)2着
デビュー2戦は芝で結果が出ませんでしたが、ダート転向後2戦目で勝ち上がるとそのまま連勝を重ね、3歳で挑んだジャパンカップダートでは大本命馬シーキングザダイヤが外を回って伸びる中、直線内を掬って一気に抜け出すとそのまま押し切り、5連勝でのGⅠ初制覇を飾りました。
その後は2度の故障による長期休養があって勝ち鞍をあげることはできませんでしたが、その雄大な馬体からも非常に能力を感じさせる1頭でした。
エルコンドルパサー産駒の特徴
上記に挙げた2頭とも初重賞勝ちをGⅠであげたように、エルコンドルパサー産駒にはクラスが上がっても格負けせずに、むしろ強い相手の方がより底力を発揮するような力強さがありました。
より特徴を伝えるため上記2頭を挙げましたが、他にも中央・地方を含めてGⅠ9勝をあげたヴァ―ミリアンや、10歳でステイヤーズSを制したトウカイトリックなど、高齢になっても成長力を感じさせる産駒も数多く、また、芝・ダートを問わず幅広く活躍する産駒を輩出するマルチプレイヤーな面も特徴と言えるでしょう。
3世代しか産駒が残せずに早世してしまったのが非常に惜しまれますが、もし無事なら今でも安定してリーディング上位を争う大種牡馬となっていたと思います。
まとめ
海外のGⅠレースにおいて短距離では通用していたものの、クラシックディスタンスにおいては世界と大きな能力差があった中、4歳シーズンをヨーロッパで過ごし、そこでトップクラスと互角以上の競馬を見せたエルコンドルパサーは、まさに日本競馬が世界と互角に戦えることを自らの走りで証明した国際化の先駆け的存在と言えるでしょう。
いつの日か訪れるであろう日本馬の凱旋門賞制覇の時に、そこへ続く道筋を残してくれたエルコンドルパサーの功績は、改めて評価する必要があり、これから先の競馬界において語り継いでいく必要がある1頭と言えるでしょう。