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人間の記憶というのは意外とアテにならないもので、競走馬の強さの尺度を測るとき、どうも「成績」だけにこだわってしまうところがあります。
競走馬のポテンシャルの高さを評価することはそんなに簡単なことではないはずなのに、やっぱり成績にこだわって馬券を購入し、痛い思いをすることは多くの競馬ファンが経験していることでしょう。
GⅠを1つでも勝つことができれば、個人的には大変な名馬だと思いますが、しかし実際には5つも6つも勝ってしまった馬たちがいて、5つも6つも勝った馬たちだって、7つも勝ってしまった馬たちがいる以上、どうしても評価が低く見られることが避けられません。
その理屈でいうと、これまで幾多の名馬が誕生した中にあって、GⅠ2勝馬というのはそこまで際立った成績ではないことは事実です。ただ、だからといってその馬がGⅠをいくつも勝った名馬とくらべて劣っているとは限らないのです。
そんなGⅠ2勝馬の中で、この馬はもしかしたらポテンシャルの高さだけなら世界で一番だったのではないか・・・と思われた馬がいます。
その馬とは、あのジャパンカップを圧勝したエピファネイアです。
今回は、まだ引退して(2016年の時点で)間もないエピファネイアにスポットを当ててみたいと思います。
エピファネイアの血統
2013年 神戸新聞杯
Nadaraikon - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=74511791による 出典:wikipedia
父 |
父の父 Kris S. |
父の母 Tee Kay |
|
母 シーザリオ |
母の父 |
母の母 キロフプリミエール |
それでは、はじめにエピファネイアの簡単なプロフィールをご紹介したいと思います。
まずは血統からです。
お父さんはシンボリクリスエス、母の父はスペシャルウィークという血統で、字面だけ見れば正直そこまで超良血馬であるとはいえません。
ただそれでもやっぱりエピファネイアが「超良血馬」でくくられることが多かったのは、お母さんのシーザリオの影響が何より大きかったです。
シーザリオといえば、男勝りのものすごい馬体がいつでも漆黒の光を伴って威圧感抜群の名馬(日米オークス優勝)でした。
エピファネイア自身もお母さんの影響を受けた迫力ある馬体でしたが、やはりお母さんは真っ黒な馬体ということもあってか、とにかくその威圧する雰囲気に、とても牝馬と思えないものがありました。
シンボリクリスエス(その父クリスエス、ロベルト系)にしてもスペシャルウィーク(その父サンデーサイレンス)にしても、日本では今さら語る必要がない、どちらもヘイルトゥリーズンの血脈(インブリードとしてはヘイルトゥリーズンの4×5)ということで、おそらく誰もが納得できる配合かと思います。
エピファネイアが所属していたのは、お母さんのシーザリオも管理した栗東・角居勝彦厩舎で、その主戦ジョッキーだったのが、やはりお母さんのシーザリオで日米オークス制覇を果たしていた福永祐一騎手でした。
ただ、エピファネイアが最も強い競馬をし、そのポテンシャルを最も発揮したのが、あのオルフェーヴルの手綱を執ったこともあるフランスのベルギー人騎手クリストフ=スミヨンが乗ったジャパンカップでした。
クラシックラストの1冠、菊花賞で悲願の勝利
2013年 菊花賞
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エピファネイアはデビューから3連勝でラジオNIKKEI賞を優勝し、最も注目を集めた2歳馬でしたが、残念ながら春のクラシックを制することはできませんでした。
皐月賞は、後のGⅠ3勝馬であるロゴタイプ、そしてダービーはあのキズナの前にどちらも2着と敗れる残念な3歳春になりました。
特にダービーでは、エピファネイアの激しすぎる気性もあって、道中で前の馬に乗りかかる落馬寸前の不利が最後の最後に響いた印象も正直ありました。
あれがなければもしかしたら・・・という内容で、しかも相手がキズナと武豊だったこともあって、福永騎手ともども、エピファネイアは非常に悔しい春クラシックだったと想像できます。
しかしその悔しさを見事にバネとし、秋に一気に晴らすことに成功します。
休み明けということもあって、春ほど行きたがる素振りを見せず、見事に折り合った神戸新聞杯を快勝し、ラスト1冠の菊花賞に臨みます。
気性的に長距離の菊花賞を乗り切ることがほんとうにできるのか懸念されましたが、エピファネイアにとって大きな幸運が後押ししました。
それは、菊花賞が雨の中、不良馬場で行われたことでした。
燃えすぎる気性の競走馬が雨になると折り合いがスムーズになるという話をよく耳にしますが、エピファネイアもまさにそのタイプで、落ち着いていたからこそ、これまで末脚にこだわったエピファネイアを前で競馬させることに福永騎手は成功したのです。
先行して折り合い、しかも最大のライバルと目された春クラシックの覇者キズナとロゴタイプ不在となれば、エピファネイアが負ける道理がありませんでした。
戦前の評価どおり、なんと後続を5馬身もぶっちぎる圧勝劇で、エピファネイアはついに悲願のクラシック制覇を成し遂げたのでした。
そして、さらなる成長を促すために、この年のジャパンカップと有馬記念は見送られることになりました。
年明けは産経大阪杯から始動し、久々にダービー馬キズナとの直接対決が、GⅡながら大いに盛り上がりました。
キズナがいながらも、圧倒的人気に支持されたのはエピファネイアのほうでした。
折り合い自体はそれほど問題ないようにも思われましたが、しかし休み明けのせいかその走りはどこかぎこちなく、だいぶ力んでいるように見えました。
リズムよく走れないときのエピファネイアは脆いところがあります。
思ったほど末脚を伸ばすことができず、再びキズナの前に3着と苦杯をなめます。
周りの評価を覆した2014年ジャパンカップでの圧勝劇と引退
その後も香港のQEⅡCで4着、久々の天皇賞秋で5着と、本来の走りができなかったエピファネイアに、「なんだ、こんなものだったのが・・・」の評価が下りかかったとき、フランスの名手がエピファネイアや関係者、そしてエピファネイアのファンを救う救世主となったのです。
それは2014年のジャパンカップでした。
このとき福永騎手は、「世界のジャスタウェイ」に騎乗したこともあって、スミヨンへとスイッチされましたが、このときは乗りなれていないスミヨンがエピファネイアの行きたがるほどのスピードを瞬時に理解し、府中ではありえない位置からゴーサインを出すと、エピファネイアは最後の最後まで頑張り切り、2着ジャスタウェイになんと4馬身もの差をつけて圧勝を飾るのでした。
しかし続く有馬記念では、小回りコースに適性がなかったこともあって5着と敗れ、年明けのドバイWCにも再びスミヨンを配して果敢にチャレンジしましたが、9着と敗れました。
その後屈腱炎が発覚し、残念ながらこのレースを最後に引退し、現在は種牡馬として活躍しています。
種牡馬としてのエピファネイア、その評価は?種付け頭数、種付け料
GⅠをいくつも勝つ馬が最近多いことから、エピファネイアの種牡馬としての評価が気になるところですが、しかしやはりジャパンカップをあの強さで勝ったことが高く評価され、種牡馬としても多くの生産者がエピファネイアに注目を集めています。
簡単に種牡馬としてのエピファネイアの情報にも触れておきますと、まずは2016年の種付け頭数は221頭(6位、5位はディープインパクト、7位はエイシンフラッシュ)ということで、これは新種牡馬として非常に大きな期待の表れとなっています。
種付け料が250万円と手ごろな価格であることも、人気の理由になるでしょう。
おそらく2019年には、エピファネイアにそっくりな、そしてお母さんのシーザリオを彷彿とさせるようなたくましい産駒がターフに登場していることと思います。
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