クロス血統という言葉をご存じでしょうか。
クロス血統とは別名インブリードとも呼ばれ、いわゆる近親交配のことを意味します。
競走馬の血統を調べる際、その競走馬の母父だけでなく、そのさらに母父を図で表記しているでしょう。
競馬は「ブラッドゲーム」と呼ばれるほどに競馬における競走馬の血統は重要視されていて多くの競馬情報サイトや競馬冊子などでも取り上げられるほどです。
人間でも兄弟同士で交配することはありません。なぜなら近親交配は子供への悪影響が非常に強いからです。
それは馬にとっても言えることです。交配する馬の血統を遡って濃い血統にならないか、慎重に慎重に交配が進められているのです。
実際には繁殖の際は3代前より最近の父母と交配することはないということです。
では、競走馬の交配を行う際、どのように交配相手を決めているのかを有名な馬を例に紹介して行きます。
ブエナビスタのクロス配合(インブリード)
実際に活躍した馬を例にとって説明します。
引用:https://db.netkeiba.com/horse/ped/2006103319/
ブエナビスタは6歳まで現役で活躍し、最終的にG1を6つ手にしました。大舞台で大活躍し、2008年から2011年の競馬界を牽引したことで記憶に残っている人も多いでしょう。
引退レースとなった有馬記念では当時3歳馬のオルフェーヴルにバトンを渡すようにしてターフから去りましたね。
このブエナビスタの血統背景を見てみると父方の4代目にNijinskyという名前が書いてあるのがわかりますでしょう。
そして、母方の3代目にもNijinskyという名前が見られるでしょう。
このように5代目までの血統表の中に父方、母方のほうに同じ馬の名前が入っていれば、インブリードというクロス配合となるわけです。
ブエナビスタの場合は父方の4代目(ブエナビスタから見て父の母の父の父)と母方の3代目(ブエナビスタから見て母の父の父)にNijinskyがいるためインブリード(クロス配合)となります。
そして、競走馬には血量が定められています。
血量とはその字の如く、仔が持つ血量を意味しますが競走馬の場合は何代も前の血統を遡って血量が定められます。
くわしく説明すると1世代前は血量50%、2世代前は血量25%、3世代前は血量12.5%、4世代前は血量6.25%、5代前は血量3.125%となります。
ブエナビスタの5代血統を見てみましょう。父方と母方の血統を遡ってみると、父方の3代目と母方の4代目にNijinskyのクロスを持っているので、ブエナビスタはNijinskyの血量12.5%+6.25%で合計18.75%持っていることとなります。
この18.75%が競馬において奇跡の血量とも呼ばれる血の濃さを表す数字になります。
血量が濃すぎると体質の弱い馬、気性難の馬が生まれてしまうリスクが高くなります。
逆に血が薄すぎると両親のポテンシャルを引き継ぐことができません。
この奇跡の血量は競走馬にとって、両親のポテンシャルを引き継ぎつつ、体質のいい馬を生み出す限界値なのです。
そのため生産者は18.75%以上の血量では基本的には配合しません。
この奇跡の血量に関して少し掘り下げると、18.75%という数字に科学的根拠はまだ解明されていません。
しかし、血統の濃さを考慮した18.75%という数字は競馬発祥の地であるイギリスで古くから研究されており、競馬創成期からすでに競馬界に浸透していたのです。
なお、奇跡の血量を提唱したのは学者であるフィッツパトリック氏とラックブー氏でした。奇跡の血量はこの二人の学者の名前の一部をとって「フィッツラック繁殖説」とも呼ばれます。
ちなみにこの18.75%という数値は一言で表すなら4代前祖先と3代前祖先の間に被った馬が存在することで生み出されるため4×3のインブリードとも呼ばれます。
この4×3配合で産まれた名馬はブエナビスタ以外にも数多く存在します。
古い馬で見るとBlandfordの4×3をもち、皐月賞とダービーの2冠を達成したコダマという馬がこの奇跡の血量でした。
近年で見ると朝日杯FS・皐月賞・安田記念を制したロゴタイプがHaroの4×3、ダービーと天皇賞(秋)を制したレイデオロがミスタープロスペクターの4×3、その他にもドリームジャーニーやその全弟であるオルフェーヴルも4×3の配合なのです。
エネイブルのクロス配合(インブリード)
引用:https://db.netkeiba.com/horse/ped/000a013a50/
こちらは凱旋門賞連覇を成し遂げ、2019年に史上初となる三連覇に挑みましたがヴァルトガイストに阻まれ2着に敗れたエネイブルの血統です。
牝馬のエネイブルの5代血統を見てみると父方の3代目と母方の2代目にSadler's Wellsという馬がいますね。
エネイブルはSadler's Wellsの3×2の配合となり、Sadler's Wellsの血量を25%+12.5%で37.5%継いでいるのです。
奇跡の血量である18.75%の倍以上の血量を持つエネイブルは非常に濃いインブリードを持つ馬だったのです。
近親配合は血量が濃いほど虚弱体質、気性難の馬が誕生しやすいため関係者は濃いクロスを回避しがちです。
ところががエネイブルは濃い近親配合を持ちながらも気性にも体質的にも全く問題はなく、むしろ父Sadler's Wellsの特徴を強く受け継いだインブリードの成功例なのです。
エネイブルは欧州で大車輪の活躍を見せ、2020年3月時点で凱旋門賞を含む、G1タイトルを10個獲得しています。
近親配合はデメリットに目が行きがちですがエネイブルのようにメリットだけを受け継ぐ馬も少なからず存在するのです。
サンデーサイレンスのクロス配合(インブリード)
引用:https://db.netkeiba.com/horse/ped/000a00033a/
日本競馬界に大変革をもたらしたアメリカのサンデーサイレンスの5代血統を見てみましょう。
サンデーサイレンスは父方の4代前と母方の5代前にMahmoudという馬がいることが分かりますね。
サンデーサイレンスはMahmoudの5×4のクロス配合となり、Mahmoudの血量を6.25%+3.125%で9.375%継いでいることが分かるでしょう。
サンデーサイレンスはインブリードとはいえそこまで濃い血を継いでいないことが分かります。
ディープインパクトの配合(アウトブリード)
引用:https://db.netkeiba.com/horse/ped/2002100816/
サンデーサイレンスが死去する数年前にこの世に誕生したディープインパクトはサンデーサイレンス産駒の最高傑作ともいえる一頭でしょう。そのディープインパクトの5代血統はこちらです。
父方を見ても母方を見ても2つ以上名前のある馬は存在しません。
ディープインパクトのように5代前に父方、母方に同名馬が一頭もいない馬をアウトブリードと呼びます。
アウトブリードとは近親配合の対義語であり、異系交配とも呼ばれます。
ブエナビスタやオルフェーヴルのように両親の長所を継ぎやすい4×3の近親配合が最もよいといわれがちですが、このディープインパクトのようにアウトブリードで活躍した馬も数多く存在します。
ディープインパクトはいうまでもないでしょう。そのディープインパクトに勝ったハーツクライもアウトブリードですしダートのディープインパクトと呼ばれたカネヒキリもアウトブリードです。
アウトブリードは体質の弱い馬が生まれにくいだけでなく、気性や体質が強く、長く活躍できる馬が多いです。また、アウトブリードの馬から生まれた仔も安定した活躍を見せる傾向があり息の長い活躍を見せるのです。
ハイリスクハイリターンなインブリード
実際の馬を例にクロス交配について紹介しました。
インブリードはエネイブルのように噛み合ったときに大活躍する馬が多いですがその反面気性や体質に問題のある馬が生まれる可能性も高く、リスクが大きいです。
アウトブリードはハマったときの爆発力こそないもののしっかりした体質と落ち着きをもつ、安定した馬が誕生しやすいです。
どちらも一長一短ですが競馬関係者はリスクを冒してインブリード交配を行うよりは息の長い馬の生産に取り組んでいる傾向が強いです。
なぜなら長く活躍するほどレースに出走でき、賞金を得られる機会が増えるからです。
競走馬は経済動物という側面もあるため、どうしてもお金がらみになってしまうのはやむを得ないかもしれません。
しかしオルフェーヴルやエネイブルのようにかみ合ったときの活躍ぶりは多くの人を沸かせます。
インブリードとアウトブリードはどちらも一長一短ですが、血統は突き止めれば非常に面白い要素なので興味のある方は血統を見ながら馬券予想されてもいいかもしれません。
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