(Enable, Frankie Dettori and John Gosden at the 2018 Breeders' Cup)出典:wikipedia
By Jlvsclrk - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=74198173
※記事の内容は2019年9月6日時点のものです。
日本では海外の競馬のニュースが乏しいことから、海外の競争馬についてあまり詳しくない人は意外と多いと思います。
その中でも日本人にとって馴染みの深い馬はこのエネイブルでしょう。
エネイブルとはイギリスの5歳の牝馬の競走馬です。
2019年9月時点で競争成績は14戦13勝。
内、G1タイトルを10個つかみ、そのうち8つのレースで2馬身以上差をつけて圧勝しています。
キャリアだけ見ても相当強い馬ですが、インパクトのある外国馬は他にもいます。
例えばオーストラリアのウィンクスは生涯成績43戦37勝で33連勝、内G1を25連勝と、破竹の勢いままに今年の4月に引退しました。
日本人にとってウィンクス以上になぜエネイブルが有名かというと、ひとえに凱旋門賞の存在があるからでしょう。
日本馬が史上一頭も成し遂げられない凱旋門賞をあっさり連覇した牝馬のエネイブル。
今年は史上初の凱旋門賞3連覇を目指して現役続行を表明しました。
ウィンクスほど数字の勢いはないもののこちらも12連勝と勢いままに凱旋門賞を目指します。
そのエネイブルの強さの根源はどこにあるのか、エネイブルが過去に走ったレースを紹介しながらみていきたいと思います。
エネイブルの血統背景
エネイブルは父はキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスを制したナサニエル。
ナサニエルの父(エネイブルの祖父にあたる)はイギリスダービー、アイルランドダービーと2か国のダービーを制した名門です。
ちなみにエネイブルはナサニエルの初年度産駒です。
母のコンセントリックは2000mのレースで勝ち星をあげていて通算成績は6戦3勝。
大きなタイトルはつかんでないので至って平凡な競走馬だったようです。
エネイブルの英オークス
エネイブルの勝ったレースは着差が着差だけにインパクトの強いレースが多いです。
その中でどのレースをピックアップしてエネイブルの強さを文章にまとめようかと悩みましたが、まずはエネイブルの記念すべき初G1となったイギリスオークスから見ていきたいです。
イギリスオークスはイギリスのエプソム競馬場で開催された12F(2400m)のレースです。
余談話になりますが、東京競馬場で6月に開催される重賞エプソムカップは、このエプソム競馬場が由来で、東京競馬場とエプソム競馬場が姉妹競馬場として提携していることから冠名が付きました。
このイギリスオークスはあいにくの雨…というより雷雨が轟く中でのレースとなりました。
1番人気は前年、ニューマーケット競馬場で開催されたフィリーズマイル(G1)を勝ったロードデンドロンが圧倒的一番人気でした。
激しい雨が降る中でレースは始まりました。
先手を奪ったのはポケットフルオブドリームス。
2番手にフランスのG1、サンタラリ賞を制したソベツ。
人気のロードデンドロンとエネイブルは3.4番手の位置で競馬することになりました。
レースはポケットフルオブドリームスが大きく逃げる形となり、中盤までは10馬身ほどの縦長の展開でレースが進行します。
レースに変化があったのは直線に入ってからです。
直線で2番手につけていたソベツがポケットフルオブドリームスをかわしますが、すぐ後ろで競馬をしていたロードデンドロンとエネイブルが並んでソベツをかわして先頭に立ちます。
2頭のマッチレースとなりましたが、ロードデンドロンの内で競馬をしていたエネイブルが残り300mを過ぎたあたりでグングンと力強い走りを見せつけると、ロードデンドロンをぐいぐい突き放して5馬身差をつけてゴール板を駆け抜けました。
2着だったロードデンドロンはその後シャンティイ競馬場で開催されたオペラ賞(G1)、ニューベリー競馬場で開催されたロッキンジステークス(G1)と、G1タイトルを2つ手にし、2018年に引退しました。
このときのロードデンドロンもこのイギリスオークスでは3着馬に4.5馬身ほど離しての2着に入選していて十分すぎるほど強い競馬をしました。
それ以上に、そのロードデンドロンを赤子扱いするような形で圧勝したエネイブルの強さが際立った一戦でした。
また、雷雨の中で勝ち切ったために、力のいる舞台でも戦えることが証明された、収穫の多い一戦だったといえるでしょう。
エネイブルの愛オークス
スノーフェアリーという馬をご存じでしょうか。
2010年、2011年のエリザベス女王杯でメイショウベルーガ、アヴェンチュラ、ホエールキャプチャ、アパパネらを蹴散らして連覇した馬で、競馬歴が10年近くある人には馴染みのある馬でしょう。
スノーフェアリーはアイルランドで生産されたイギリスの競走馬で、イギリスオークス、アイルランドのオークス(アイリッシュオークス)と2か国のオークスを制した牝馬です。
2か国のオークスを制した牝馬はスノーフェアリーを最後にいませんでしたが、その記録に乗っかかったのがこのエネイブルです。
圧倒的な強さを見せたイギリスオークスから約1か月後にアイリッシュオークスが開催されます。
この年のアイリッシュオークスはイギリスオークスの再来ともいうべき強い競馬でした。
エネイブルは前半、2番手で競馬をすすめると、直線で早めに先頭に立ちます。
一度前にでたら前走イギリスオークスのように後続を置き去りにするかのような強い競馬でぐんぐん突き放して2着馬レインゴッデスに5馬身半差の圧勝劇でした。
レインゴッデスも前走はG1で2着馬ですし、このレースでも3着馬に2馬身ほど空けての2着入選なので決して弱くはないのですが勝ち馬エネイブルが強すぎました。
スノーフェアリー以降、7年ぶりとなる2か国制覇を成し遂げることになったのです。
凱旋門賞へ向けて走るエネイブル
アイリッシュオークスを制したあとはキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスで2着馬ユリシーズに4馬身半差つけて圧勝。
父娘ともに同舞台を制することになりました。
このころになると陣営も凱旋門賞を視野に入れることになります。
凱旋門賞前の叩きとして、イギリスのヨーク競馬場で開催されるヨークシャーオークス(オークスと名称がついていますが3歳”以上”の牝馬が出走できるレースです。)に出走すると2着馬コロネットに5馬身差つけてあっさり勝利します。
この結果を見て、この年の最大目標を凱旋門賞に設定した陣営は追加登録料を支払い凱旋門賞へ出走することにしました。
この年の凱旋門賞は日本馬のサトノダイヤモンドが出走することで話題になりましたね。
サトノダイヤモンドはこの時4歳。3歳の頃に菊花賞を制してルメール騎手に初のクラシック勝利をプレゼントしました。
また、暮れの有馬記念ではキタサンブラックや前年のグランプリホースであるゴールドアクターを捕らえて優勝したことは記憶に新しいですね。
4歳春の最大目標であった天皇賞春は外枠の不利に泣かされ、キタサンブラック、シュヴァルグランに先着を許しての3着でしたが強い競馬が見られました。
また、昨年、同期のダービー馬であるマカヒキが凱旋門賞で敗れてしまったことで、より一層、悲願の凱旋門制覇を目指して注目を集めていました。
ところがサトノダイヤモンドが凱旋門賞のステップとして選んだフォア賞では休み明け・海外輸送・重馬場に加えて慣れない洋芝の影響もあって4着に敗れてしまいました。
日本では、サトノダイヤモンドが凱旋門賞で通用するのは不穏な空気に包まれていましたが、そのころ、エネイブル陣営は順調に凱旋門賞への準備をすすめることができました。
この年の凱旋門賞はロンシャン競馬場が改修工事ということもあり、シャンティイ競馬場で開催されることになりました。
日本ではサトノダイヤモンドが悲願を成し遂げられるか、イギリスではエネイブルが怒涛の勢いで凱旋門賞を制するのかが注目される中、レースが始まりました。
シャンティイ競馬場の芝2400mはスタートから非常に長い直線を走って3コーナー~4コーナーを回ってゴール板を目指すワンターン式のコース形式となっています。
日本で芝2400mでワンターン形式のコースはないので日本人にはあまり馴染みがありませんね。
レースは序盤、エネイブルは先行集団に立つかと思われましたが、長い直線で縦長の展開になり、3コーナーで先頭に立っていたのはオブライエン調教師のアイダホ、次いで同じくオブライエンのオーダーオブセントジョージ。そしてその後ろにエネイブルが立ちます。
サトノダイヤモンドは6番手くらいの位置から外を回って先頭集団を目指しました。
直線でアイダホやオーダーオブセントジョージが粘る中、サトノダイヤモンドは一杯になりつつありました。
その中で抜け出したのは先行競馬をしていたエネイブルです。
アイダホやオーダーオブセントジョージをかわすと、牡馬の世界最高峰のメンバー相手にも全く寄せ付けないほどの勢いで加速し、見事に凱旋門賞初制覇を成し遂げたのです。
レースタイムは2.28.6でした。
エネイブルの強さ
翌年の凱旋門賞、日本ではクリンチャーが出走したことで話題を集めましたがフタを開けてみればエネイブルが連覇したことでエネイブルに話題は持っていかれましたね。
そのエネイブルの強さの根源はどこにあるのでしょう。
3歳のレースを見てみるといずれも勝ち方は先行競馬からの直線勝負。
意外なほどシンプルな競馬ともいえるでしょう。
そのエネイブルの強さの秘密は豊富なスタミナと力強い末脚でしょう。
例えばイギリスダービーは映像で見たら一目瞭然ですが激しい雨で非常に馬場が悪かったです。
直線でロードデンドロンと競り合いになりましたがロードデンドロンの内から伸びてきてきました。
力の必要な馬場なので相当脚に負担はかかりますし、なおかつバテやすい舞台で後続を突き放す勢いで勝ち切れたのは、ひとえにスタミナと力強い脚質があってこそです。
エネイブルはこのスタミナと脚質を武器に、2017年の凱旋門賞も制しました。
ただ、トップスピードは意外と速くなくて、例えば2018年の凱旋門賞、クリンチャーが敗れてしまったこのレースで早めに出し抜いて連覇を狙いましたが最後の最後、この年のアイリッシュオークスを制したシーオブクラスに詰め寄られています。
そのため、弱点としてははや仕掛けが裏目にでる、もしくは後続が勢いよく詰めてきたときに脆さがでてしまうかもしれません。
それでも有り余るスタミナと疲れることをしらない末脚でここまで連勝しているエネイブル。
今年は史上初となる凱旋門賞3連覇を目指します。
日本からもグランプリホースのブラストワンピース、長距離G1を2勝しているフィエールマン、逃げる競馬でG1前線を盛り上げたキセキと、現時点で3頭の日本馬が凱旋門賞を目指します。
日本の悲願が達成されるか、エネイブルの凱旋門賞3連覇が見られるか。
今年の凱旋門賞も非常に楽しみなレースであると信じています。