近年は、日本馬が海外のG1級レースに出走するのが当たり前になりました。
出走するだけでなく、勝つことさえ当たり前といえるレベルにまで、日本の競走馬はすでに達しています。
ただ、唯一先頭ゴールインを許されないといっても過言ではないのが、今ではもうすっかり「日本の悲願」となった凱旋門賞です。
凱旋門賞は「ヨーロッパ最高峰」とも「世界最高峰」とも言われるくらい、世界のホースマンが注目するレースです。
今年2016年も、日本ダービーを制したマカヒキが挑戦したこと(結果は14着)は記憶に新しいところです。
そしてこの凱旋門賞で、やや抜けた1番人気に支持されていたのが、アイルランド産英国馬のポストポンドでした。
英語の発音では「ポウストゥポウンドゥ」という感じになるのでしょう、その意味を考えると少し不思議な名前ですが、凱旋門賞でも1番人気を張るくらいですから、現役世界最強クラスの1頭であることは間違いありません。
ポストポンドの血統背景
それでは、世界最強クラスの1頭であるポストポンド(牡5歳・2016年現在)のプロフィールを簡単にご紹介しておくことにしましょう。
父ドゥバウィーは、シーキングザゴールド(シーキングザパールらの父)、ドバイミレニアム(ドバイWCなど優勝)を経たミスタープロスペクター系種牡馬で、ヨーロッパであれだけ猛威をふるったガリレオ(その父サドラーズウェルズ)の牙城を崩しつつある、現在ヨーロッパで最も勢いがある種牡馬です。
母の父ドバイデスティネーションは、日本ではあまり知られていませんが、こちらはキングマンボ系ということで、ポストポンドはミスタープロスペクターの4×4という血統背景にあります。
ヨーロッパではノーザンダンサーを起点とするニジンスキー系、サドラーズウェルズ系血脈が長く繁栄してきましたが、近年は日本同様スピード化が進んでいることもあり、米国血統のミスタープロスペクターの系統がヨーロッパ競馬を席巻する勢いです。
ポストポンドもまさにその代表格といえるでしょう。
ポストポンドを管理しているのは、イギリスのロジャー=ヴァリアン厩舎で、主戦ジョッキーはイギリスを拠点として活躍するイタリア人ジョッキーのアンドレア=アッゼニ騎手です。
ここまでの戦績・主な勝ち鞍
ポストポンドは2016年11月23日現在で、18戦9勝という成績を残しています。
主な勝ち鞍には、2015年7月のKG6&QES(いわゆる”キングジョージ”)、2016年に入って3月のドバイSC、6月コロネーションC、8月の英インターナショナルSがあります。
これらは日本でいうところの「G1級レース」ですから、日本なら「GⅠ4勝馬」ということになります。
ということは、なかなかの強者といえるのです。
たとえば、日本でいえば、残念ながら今年夏故障で引退したばかりの2冠馬ドゥラメンテと同格レベル以上ということになるのかもしれませんね。
ドゥラメンテはクラシックの2冠(GⅠ2勝)止まりでした。
まあ、まったく異なる世界の競馬ですから単純比較はできませんが、イメージ的にはちょうど「ドゥラメンテ級」といえるのではないでしょうか。
ちなみに、過去の日本馬でGⅠ4勝を挙げた名馬は意外と多く、たとえばあのオグリキャップや、オルフェーヴル、ゴールドシップらの祖父メジロマックイーン、ルドルフの子トウカイテイオー、三冠馬ナリタブライアンのライバルだったマヤノトップガンなどの名前が思いだされます。
もうひとつ、ポストポンドは昨年のキングジョージから今年の英インターナショナルステークスまで、G2級レース2レースを挟んで6連勝を飾っていましたが、残念ながら凱旋門賞では人気に応えることができず、アイルランド牝馬ファウンドの前に5着と敗れていました。
ポストポンドの今後の展望
ヨーロッパでは、クラシックが終わるとそのまま引退というケースも珍しくありませんので、G1級レースを複数勝ちながらも5歳までレースを続けるケースのほうがむしろ珍しいといえるかもしれません。
その意味では、ポストポンドはヨーロッパ競馬としては少々異色の存在といえるでしょう。
ただ、このあたりもタフなアメリカ血統の影響が大きいと考えられますが、それはまたさておき、ポストポンドの今後についても少しお話しておくことにしましょう。
ヨーロッパ競馬は、今年に関してはもうシーズンが終了していますので、来年以降の予定になります。
歳が明けると6歳になるということで、個人的には先日の凱旋門賞で引退かな・・・と考えていました。
しかし陣営はすでに来年の現役続行を発表しており、来年3月のドバイで行われるドバイSCの連覇を目指すプランが浮上しています。
まあヨーロッパの競馬の世界では、そういった青写真が簡単にひっくり返って「やっぱり引退します」くらいのことは当たり前に起こります(実際凱旋門賞連覇のあのトレヴも、お婿さんが決まっていたにもかかわらず翻意して現役を続行した)ので、ポストポンドの去就についても、正直まだ明言できるものではないと考えておいたほうがよいのかもしれませんね。
とはいえ、ポストポンドの場合、クラシックとはまったくといっていいほど無縁で、古馬になってからメキメキと頭角を現した晩成タイプの牡馬だけに、今後の活躍もまだまだ期待できますし、もしプラン通り現役続行であるなら、来年以降再び日本馬にとっての強力なライバルとなることは間違いないでしょう。
ポストポンド自身の走りからみる凄さ
凱旋門賞でも1番人気に支持される(日本のみのオッズでは日本馬マカヒキに続く2番人気)くらいですから、それだけでも十分にポストポンドのすごさが伝わってきます。
何しろ、日本人にとって記憶に残る凱旋門賞で1番人気だった馬といえば、エルコンドルパサーと叩きあったモンジュー(優勝)、英雄ディープインパクト(3位入線後失格)、そして暴君オルフェーヴル(2着)、そのオルフェーヴルを下して凱旋門賞連覇を果たした歴史的名牝トレヴ(4着)の名前がすぐに思いだされるでしょう。
もちろん、キングジョージやドバイSC、コロネーションC、インターナショナルステークスを勝ったという実績だけでも十分すごさはわかります。
ただ、そうした数字で見るすごさではなく、ポストポンド自身の走りから感じられるすごさも、やはり見逃すわけにはいかないでしょう。
これまでに触れてきたように、ポストポンドは完全にアメリカ血統の英国馬といえます。
確かに父母両系統に広義の欧州血脈(リファール直仔のダンシングブレーヴや英ダービー馬シャーリーハイツ、リボー系のアレッジドなど)が加味された血統ではありますが、やはりミスタープロスペクターのクロスは非常に大きな血統的インパクトがあります。
ところが、アメリカ競馬と好対照であるはずの欧州競馬に非常にマッチした走りであるところが、やっぱりこのポストポンドはすごいな・・・と率直に思える部分です。
まあこれは正直反面教師というか、日本でちょこっと活躍しても凱旋門賞ではまったくお話にならない過去の名馬がいたことも踏まえての意見ではありますが。
その一因が、やっぱり「血統」にあったのかという印象が強いのです。
ですからポストポンドはドゥラメンテをはじめとする過去の名馬と同等以上の実力を持ちながら、日本でいうエルコンドルパサーやオルフェーヴルのような「適応力の高さ」が自身に「凄み」を与えているという気がしてなりません。