武豊とダンスインザダーク
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黄金配合と言われたダンスインザダークの血統
『サンデーサイレンス×ダンシングキイ』
この配合は当時『黄金配合』とも呼ばれ、姉にオークス、エリザベス女王杯の勝ち馬で、海外遠征も積極的に行ったダンスパートナー、そして妹に桜花賞、ヴィクトリアマイル勝ち馬のダンスインザムードと、GⅠで勝ち負けする産駒をこれだけ輩出した母ダンシングキイはまさに名牝と呼べるでしょう。
他にも父トニービンで重賞3勝に加えて、クラシックでもナリタブライアン相手に善戦したエアダブリンなどもいましたが、ダンシングキイ産駒の中でもGⅠは菊花賞の1勝だけながら、関係者が口をそろえて『能力はこの馬がダントツで一番』と評価したのが今回の主役であるダンスインザダークでした。
調教師 橋口弘次郎氏の評価が評価した馬体
ダンスインザダークが生まれたのは6月とサラブレッドとしては遅生まれの部類に入りますが、当歳(0歳)の時に当馬を見た調教師の橋口師は、その雄大な馬体から大物感を感じ取り、直感で間違いなくクラシックを取れる馬だと確信したと後に語っています。
デビュー前から日本ダービーを見据えたローテーションが組まれ、デビュー戦快勝後もすぐに重賞戦線に挑戦したのもこの馬に対する期待の表れでしょう。
後に橋口師は国内で唯一ディープインパクトに勝ち、海外GⅠまで制したハーツクライや、念願のダービー制覇を果たしたワンアンドオンリー、さらには菊花賞でネオユニヴァースの3冠を阻止したザッツザプレンティなど多くの活躍馬を管理しましたが、『これまで預かった中で最も素質を感じたのはダンスインザダーク』と公言しているように、それだけ素晴らしい能力を持っていたことは間違いないでしょう。
さらに、1歳時に社台ファームで調教に騎乗した武豊騎手がその動きに強い手応えを感じ、デビュー前にも関わらず自ら橋口師の下に赴いて主戦騎手に名乗り出たのも、橋口師の評価が間違ってないことを証明するのに十分すぎるエピソードと言えるでしょう。
皐月賞を目前に熱発で無念の回避
デビュー戦快勝後に臨んだ重賞2戦(ラジオたんぱ杯3歳S、きさらぎ賞)では、同じサンデーサイレンス産駒であるロイヤルタッチに先着されて3着、2着と惜敗しましたが、これは遅生まれの影響で成長曲線が緩やかだったためで、陣営もそこまで悲観はしていませんでした。
その後の弥生賞ではラジオたんぱ杯3歳Sで先着されたイシノサンデー以下を豪快な末脚で交わして快勝し、クラシックの大本命馬に躍り出ました。
しかし、好事魔多しとでも言うのでしょうか、皐月賞を目前に控えた6日前にダンスインザダークは熱発が判明し、皐月賞の回避を余儀なくされてしまいました。
この前週には同じ厩舎で桜花賞に出走を予定していたロゼカラーや、その桜花賞に断然の1番人気で臨む予定だった後の名牝エアグルーヴも熱発を発症して回避しており、『熱発』という言葉はこの年(1996年)の競馬界における流行語とも言われていました。
橋口師によると熱発自体は大したことはなく、皐月賞は使おうと思えば使える状態にはあったそうですが、そこで目標を日本ダービーにスパッと切り替えて皐月賞を回避したのは、まさに『英断』と言えるものでしょう。
その判断があったからこそ秋の菊花賞制覇に繋がったのではないかと今でも思っています。
1番人気で迎えた日本ダービーでの屈辱
皐月賞の回避からの立て直しが順調だったこともあり、当初は日本ダービーへぶっつけで挑戦する予定でしたが前哨戦のプリンシパルSに出走し、ここを熱発の影響を全く感じさせない走りで快勝すると、1番人気で日本ダービーを迎えることとなりました。
レースでは先行集団を積極的に追走し、直線に入って内から抜け出して早めに先頭に立つと後続を一気に引き離して、一旦は完全にセーフティリードを奪いました。
しかし、残り100mを切ったところで後続から唯一伸びてきたフサイチコンコルドが一瞬の末脚でダンスインザダークに並びかけると、ゴール前で一気に交わされてクビ差2着の痛恨の敗戦となりました。
交わされた瞬間、武豊騎手は『嘘だろう!?』と思ったと言い、橋口師も『頭の中が真っ白になった』と後に語っているように、完全な勝ちパターンで共にダービー初制覇が目前でスルリと逃げて行ったのは、二人にとってもかなりショッキングな事実であったと言えるでしょう。
余談ではありますが、フサイチコンコルドはダンスインザダークと共にプリンシパルSに出走予定でしたが、このレースを熱発で回避していました。
もし無事に出走していればダンスインザダーク陣営もフサイチコンコルドをしっかりマークしていたかもしれないと考えると、まさに『運命』というのはどう転ぶか分からないといった事を改めて強く感じました。
絶対に落とせない戦い 菊花賞
ダービーの敗戦後、夏を社台ファームで休養し休み明けの京都新聞杯を余裕十分といった内容で快勝すると、1番人気で菊花賞を迎えることになりました。
ダービーで後ろから差し切られたこともあり、今回はフサイチコンコルドを前に見る形でレースを進めていたダンスインザダークでしたが、2週目の3コーナーでバテて下がってきた馬に前を塞がれる形で後方まで下がり、さらに直線入り口でも最内で前が詰まったまさに絶体絶命の状況に陥ってしまいました。
しかし、武豊騎手が冷静に馬群を捌きながら徐々に外に持ち出すと、それまで溜めていた末脚を一気に爆発させ、直線完全に抜け出していたロイヤルタッチを並ぶ間もなく交わし去り、念願のGⅠ初制覇を飾りました。
普段は勝ってもクールな武豊騎手がゴール後感情のこもったガッツポーズをしたことからも、陣営一丸となっての悲願だったことが分かるのではないでしょうか。
レース翌日に屈腱炎を発症していることが判明し、結果として最初で最後のGⅠ勝利となってしまいましたが、もし無事だったら海外でも十分に勝ち負けできていたと思わせるのに十分すぎるほど説得力を持った素晴らしい末脚だったと思います。
3頭が菊花賞制覇!代表産駒と産駒の特徴
代表産駒
ツルマルボーイ
主な勝ち鞍:安田記念(GⅠ)、金鯱賞(GⅡ)、中京記念(GⅢ)など
2歳夏の早いデビューながら条件戦をコツコツ勝ち上がり、4歳の中京記念勝ち以降は重賞路線の常連として長く活躍を見せました。
4~5歳時はGⅠでの惜敗が続きましたが、6歳の安田記念で重馬場で力のいる馬場状態に加えて、安藤勝騎手の好騎乗により念願のGⅠ馬となりました。
ダンスインザダークに産駒にしては珍しい牡馬のスピードタイプと言えそうです。
デルタブルース
主な勝ち鞍:菊花賞(GⅠ)、メルボルンカップ(GⅠ)、ステイヤーズS(GⅡ)
デビューから条件戦で勝ち切れない競馬が続いていましたが、菊花賞を持ち前のスタミナを活かしたロングスパートで押し切りGⅠ初制覇を飾ると、5歳の秋にはポップロックと共にオーストラリアに遠征し、オーストラリア最高賞金額を誇るメルボルンカップではポップロックとのワンツーフィニッシュを決めて、歴史に名を残すこととなりました。
まさに『スタミナの鬼』という言葉がふさわしい名馬で、ダンスインザダークの特徴を最も濃く受け継いだ存在と言えそうです。
産駒の特徴
GⅠ勝ち馬4頭の内3頭が菊花賞勝ち馬であるように、とにかくスタミナが豊富なステイヤーが多い反面、一瞬の脚を含めて短い距離でのスピード勝負になるとやや分が悪い面が特徴的でした。
ただ、ツルマルボーイのように短い距離でも上がりの掛かる消耗戦やパワーが求められる展開などには滅法強く、とにかく道中の流れ次第な面があったのもダンスインザダーク産駒全体に見られる傾向と言えそうです。
菊花賞馬多数!ダンスインザダーク産駒の一覧、特徴、成績
まとめ
武豊騎手が後に初めてダービーを勝つスペシャルウィークの調教に騎乗した時に、『ダンスインザダークに乗り味が似ている』と語ったように、一握りの馬しか持っていない超一流馬の素質を持っていたことは間違いのない事実だと思います。
同じGⅠ1勝馬のサイレンススズカと同じように、菊花賞の強烈な末脚によって我々の『記憶』に強く残ることになった素晴らしい名馬として、今後も長く語り継いでいかれる1頭ではないでしょうか。
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